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水道料金へのダイナミックプライシング

水道料金へのダイナミックプライシング適用可能性の検討

Okumura Motoki


はじめに

2018年12月、水道事業の民営化が話題になり、水道料金の値上がりや徴収体制の変化に不安を覚えた人も多いのではないだろうか。

現在においても地域ごとに水道料金が異なり、差が大きいところでは8~10倍近くも値段が異なる。また、同じ地域内でも料金に格差があり、不満を覚える住民も少なくない。

そこで、水需要と水道料金の価格について着目し、ダイナミックプライシングの適用性を検討した。

既往研究について

水価格のプライシングによる需要の変化や、利用者の反応を調査する実験は海外では数多く散見される(Lan Mu ,et al. ,2019/Yu Fan,2018/Fernando Arbues, et al. ,2004 など )

しかしながらこれらは、水不足や節水といった状況下での実験や調査であり、実際に我が国で同じ反応があるかどうかは定かではない。

日本には豊潤な水資源や設備・再利用技術があり、価格の変動が小さいからである。更には、水は安いもの、タダ、などの認識が昔からある国民性も相まって需要の変動も予測しにくい。

本記事について

こういった状況下で、水道料金における内々価格差の是正にダイナミックプライシングは有効であるのか、これを以下の項目に沿って検討していきたい。

まずは、水がどのように使われ、水道料金がどう決まるのかを説明し、既往の研究を基に、ダイナミックプライシングに必要だと思われるデータや予測モデル、その評価方法を検討する。

最後に、このダイナミックプライシングが有効な手段であるかを考察し、その上での課題を見出す。

1.水道料金

1.1 水利用の種類と料金体系

水使用量の変遷
図-1 水使用量の変遷

水の利用には、大きく分けて以下の3種類がある

  • 農業用水(540億㎥)
  • 工業用水(111億㎥)
  • 生活用水(148億㎥)

農業用水の利用が最も多く、全体の70%近くを占める(図-1:国土交通省より)。

農業用水は耕作や水田、牧畜や栽培などに使われる水で、工業用水は冷却や洗浄、加工に用いられる。

生活用水は農業用水・工業用水以外の水で、飲料水や風呂などを指す。

また、これらの利用料についてはそれぞれの地域で設定されているが、多くの地域では二部料金制という体制を取っている。

二部料金制とは、基本料金に加えて使用量に応じた従量料金を支払うという制度で、ガスや携帯などと同じ料金体系となる(図-2,大阪市広域水道企業団より)。

二部料金制のイメージ図
図-2 二部料金制のイメージ図

特に、工場などで必要となる工業用水にはそれぞれの企業によって契約する基本使用量が異なり、これを超えると非常に単価の高い水を購入しなければならなくなる。

では、この料金体制の下でどのように水道料金が決まるのかを次節で説明していく。

1.2 水道料金の決定要因

水価格の決定要因としては、水が循環していく上で関わる価値に基づき、以下の2点に分けることができる。

  1. 営業費用…水供給システムの運転に伴う費用であり、労働力、材料、電気、ダム灌漑施設の維持、水分配に関わる費用となる。
  2. 資本費用…水供給に関わるシステム例えばダムや貯水池、頭首工、水路などの投資とその支払利息になる。
水道料金の決め方
図-3 水道料金の決め方
(内閣府ホームページ,「公共料金の窓」水道料金の決まり方より)

また、水道料金の改定においては 、 以下のような手順を踏んで改定が行われるため 、 プライシングによって 、 一括して適正価格を提案できると考えられる。

水道料金改定の手順
図-4 水道料金改定の手順
(日水コン,「水道料金改定」より)

1.3 ダイナミックプライシングへの適用

図-4からもわかるように、水の価格を決定するためには、まずどれほどの需要があるかを知る必要がある。

この需要に関しては、現在は段階別有収水量となっており、離散的な需要でしかない。この部分を、連続的な値として予測し、それに合わせた適正な価格を設定することで、プライシングが可能となる。これは、電気のピークカットが可能なように、もしも水需要の連続的な値が手に入れば、水道料金のプライシングも可能であと考えられる。

次章では、このプライシングの可能性を過去の研究により、検討していく。

2. 需要予測モデル(機械学習を用いた予測)

本予測においてAI技術を使うメリット
大量のデータを解析することによって、需要推移の特徴や傾向を読み取ることができる。これにより、人間が予想する需要はもちろんのこと、人間では気付かないタイミングでの需要増加などの予測を自動でできるようになる。

本章では、過去の先行研究をいくつか紹介し、需要予測の可能性を示す。

2.1 過去の先行研究

以下に、先行研究でNeural Network(NN)を用いた解析を行った研究を列挙する。なお、日本では海外のように細かい時間ステップで解析されているものが少ないため、海外論文を引用した。

1.Optimization of water demand forecasting by artificial intelligence with short data sets (Rafael Gonzalez Perea et al. , 2018,Biosystems Engineering 177(2019)59-66)

2.A comparison between pattern-based and neural network short-term water demand forecasting models (F.Gagliardi et al. , 2017, © IWA Publishing 2017 Water Science & Technology: Water Supply | 17.5 | 2017)

3.Hybrid model for water demand prediction based on fuzzy cognitive maps and artificial neural networks (Elpiki I. Papageorgiou et al., 2016 IEEE InternationalConference on Fuzzy Systems (FUZZ)1523-1530)

これらの論文から、需要予測に対して有効なデータと必要な解析方法を検討する。

1.の論文

この論文では、農業用水の需要に対しての予測がされており、50日分の日ごとの需要量が予測された。この精度は90%を越え、需要の動向をほぼ追えている。

2.の論文

この論文では、家庭用水に着目していた。このモデルは、日ごとに需要を予測するものと、その日の時間ごとに予測するモデルを組み合わせたものとなっている。日ごとの特性や、1日の中での需要の特性を表現することができたと述べられている。

用いられたデータは、2014年から2015年までの1年間の15分毎のデータであった。

3.の論文

この論文では、複数の要因(季節、月、平日か休日か、平均気温、最高気温、平均降雨量、観光客数、水需要)の中から水需要への寄与が大きいものをFCMという手法で選別し、それらの値をNNに入力値としている。その結果、高い予測精度を得ることができた。

2.2 必要なデータと解析方法

2.2.1 論文レビューから得られた知見

2.1で示された論文のように、水需要を予測することにおいてNNを用いることは有効であると言える。さらに、それぞれの論文より、必要であると考えられる解析やデータを述べていく。

さらに、それぞれの論文より、必要であると考えられる解析やデータを述べていく。

②の論文からは、少なくとも15分毎のデータが必要であり、長期的かつ短期的なデータに分けて解析することが有効であるとわかる。

これは至極当然で、夏には水を多く使うように、水需要には季節性があることや、週末は家にいることが多いので使用が偏ることが予測されるためである。

③の論文からは、単なる需要の時系列だけでなく、他の要因、例えば気温や降雨量なども考慮することの重要性がわかる。

さらに、主要な要因だけを抽出して、それを入力値とする手法も見られた。これはオートエンコーダによる事前学習のようなものであり、学習を効率化・高精度化することに寄与すると考えられる。

従って事前のデータ加工は必要なものの、予測には必要な手法の一つである。

また、詳細な紹介はしなかったが、論文

Urban water demand forecasting with a dynamic artificial neural network model (M. Ghiassi et al. ,2008,10.1061/(ASCE)0733-9496(2008)134:2(138))

より、ネットワークの構造も考えるべきであるとわかる。これは一般的に重要とされる項目の一つである。

他にもデータの事前学習なども有効な手法であるとも示されているため、予測モデルを構築する際には、こういった要素も考慮していく。

2.2.2 知見からわかる必要なデータと解析方法

水需要は、人々の大局的な動きの特徴を表していると考えられるため、NNによって予測が可能になっていると考えられる。従って、人々の水使用に関する行動基準となる指標をデータとして組み込む必要がある。

さらに、解析方法としては、人々の行動に合わせた解析方法、例えば、季節性を考慮することや、平日休日を考慮することが必要となる。


以上の事から、水需要を予測するためには

  1. データは、複数基準必要(降雨量、休日など)
  2. 人々の行動に合わせたデータ加工(季節性など)
  3. データや人々の行動に合わせたモデル作成

の3点が、考えられる有効なデータと解析方法である。

2.3 ダイナミックプライシングへの適用性

適用に関しては、需要が確認され次第、電気やガスのピークカットのような手法を取り入れれば良いと考える。水の需要が電気やガスと異なるだけで、適正価格に関しての考え方は同じである。従って、まずは水需要を確実に予測することが必要となる。

現在、解析手法として考えているものは、水需要に関係する要因を基にして、水需要の時系列変化を決定論的に解析する手法である。

この手法が他分野で適用されたケースが以下の論文に掲載されている。


Short-Term Power Load Point Prediction Based on the Sharp Degree and Chaotic RBF Neural Network (DongxiaoNiu et al. , Hindawi Publishing Corporation Mathematical Problems in Engineering Volume 2015, Article ID 231765,)

これは電力需要のデータから、決定論的な特徴を抽出して、それを更にニューラルネットワークに学習させて需要傾向の予測をさせるという手法であり、カオスニューラルネットワークとも言われている。

本論文においては、電力需要の傾向を予測できているため、水需要においても予測できる可能性があると考える。

この手法を用いるメリットとしては、データを入力する段階で、既にデータの特徴量のようなものが抽出されている点。そして、その上で学習を行うため、学習された特徴の範囲であれば、不規則な動きにも柔軟に対応できる点が挙げられる。

しかし、ダイナミックプライシングへの適用についての課題は2つあると考えられ、それらは社会的要因による。

1つ目は、逐次型で学習と予測を行う必要があることである。これが課題となるのは、長期的に見て人口の増減があることや、水の使用形態が変わっていく(節水など)ことがあるためである。

2つ目は、図-4の、需要予測後の手順があるということである。これにより、リアルタイムでの予測に若干の遅れが生じてしまう可能性がある。また、価格の設定を変えるために、手続きが逐一必要になってしまうことである。ただ、導入する際は現実的ではないので、これを可能にする特別措置があれば問題はなくなる。

3.今後の課題と展望

水道料金

課題

まずは、水需要に関するデータが無いことである。海外の論文を参照してきたが、海外と日本の水需要形態が異なっている可能性もあるため、実際に確認する必要がある。

次に、予測するためのモデルの決定や、データの加工方法の決定である。これは、データを見てからどのようなデータが望ましいかを検討する。また、その他の論文を参考にして、有効なデータの抽出方法を検討する。
 

展望

水の需要に関して、海外には多くの文献が見受けられた。水道が民営化されている地域や、水の需要が安定してない地域もあるためか、機械学習のような技術の採用に積極的な印象を受ける。

国内の水の制度は法律や条例によって固められているが、官民連携が盛んな今、水の政策や価格改定の新たな方針の一つとして、ダイナミックプライシングを採用する価値はあるだろう。

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